<交通事情専門家・束水妃さん>
まさに溶けゆく日本人ここにきわまれり、ではないか。電車やバスを利用する人々のマナーのことである。たしかに最近、口の臭い中年やわいせつ夕刊紙を堂々と読む中年など、公共交通機関内で迷惑行為をはたらく輩が増えていることにうすうす感づいてはいた。しかし、状況がここまで悪化しているとは…。
先日、都下でバスに乗ったときのことである。便利なSuicaで運賃支払いをすませたあと、ふと車内を見渡した私は思わず目を疑った。なんと、ローラースケートをはいたまま乗り込み、すました顔をして立っている者がいたのだ! …バスは時として急ブレーキをかけることがあるほか、はげしく揺れることもある。その際、ローラースケートなどはいていればどうなるか。賢明な読者諸兄ならおわかりだろう。急な動きでローラーが勝手にすべり、本人が転倒するだけではない。勢い余って周りの乗客にぶつかり、最悪の場合は死傷者が出るおそれすらある。
私は半ばあきれ顔で、この不届きな“ローラー族”をにらみつけた。しかし、相手は趣味の悪いピンク一色の服装で、ふふんとそしらぬ顔をして立っているばかりであった。
この手の輩はバスだけではない。私の知る限り、都内では京王・小田急・東急・東京メトロなど主要鉄道各線に数多く出没し、我が物顔でふるまっている。バスより乗降客数の多い電車ではさらに危険な事故を招くおそれがあるというのに。だが、鉄道各社はこれを取り締まるどころか、改札をすばやく通過させたり利用状況に応じてポイントを付与したりと、優遇するかまえすら見せている。おそらく、車内でローラースケートをはくような非常識な輩に逆らえば何をされるかわからない…と恐れての措置だろう。
私は、マナーの悪い乗客がこれ以上増えることを防ぐためさまざまな反対運動を先導してきた。しかし、ことここに至っては政府の力を借り、マナー向上の国民運動を盛り上げるしか道はないと思われる。具体的には以下のような方策が考えられる。
- 学校でのマナー教育の徹底
総合学習の時間に“交通機関利用実習”を行い、児童・生徒全員にSuicaの便利さを体験させる - 全国統一交通機関テストの実施
JR東日本の車両型式名テスト・山手線ゲームのほか、生活習慣アンケートでSuicaの利用状況をチェックする - 家庭での規範意識向上のための指導
お母さんにおつかいを頼まれたら、かならずファミリーマートで買い物をする。支払いはもちろんSuicaで
日本人にとって乗り物とは、社会に出れば毎日の通勤ラッシュでお世話になるもの。他のサラリーマンたちとともに平等にぎゅう詰めにされ、女性とのスキンシップをはかれる、たいせつな“ゆりかご”とも言える場である。だからこそ教育再生は、まず乗り物から。ぜひ総理にご検討いただきたい。