11日、いよいよ世界最高性能のゲーム機「プレイステーション3」(PS3)が発売となった。王者SCEが満を持して発売する至高のエンターテインメント環境。PS3は今後数年にわたって各家庭のお茶の間を席巻し、娯楽のありかたを変えると言われている。世界を変えた革命の日として記憶されることになるであろう、発売日のようすをドキュメント形式で追う。
10日21時。秋葉原の家電量販店「ヨドバシカメラ・マルチメディアAkiba」がシャッターを降ろす。店の前には、翌日の開店と同時にPS3を手に入れようという人々がすでに長蛇の列をなしていた。
「この日のために一週間前から並んでいました」
と語るのは、千葉県からきたという24歳の男性。行列の中には、旧機種のPS2をたたき壊して怪気炎を上げる者もいる。
「PS2のソフトはだいたいPS3でも動くんだ。古いのはもう必要ない」
24時。日付が変わり、ヨドバシ前の広場は寝袋や椅子を持参する人々で埋め尽くされた。その数およそ10,000人。警備員が忙しげに誘導している。成田から直行してきたというドイツ人のカール・フランクさんは、人だかりを眺めながら感慨深げだ。
「これだけ人気があるならヨーロッパで発売延期になったのも納得だ。ミスター・クタラギの判断力に敬意を表する」
1時。「PS3はやめてWiiを買いましょう」とメガホンで叫ぶ配管工が現れた。たちどころにクラッシュ・バンディクーのコスプレをしたPSファンに撲殺される。
「あんなヌンチャクのついているゲーム機なんて危険で買えない。PS3は安全のためにコントローラの振動機能も自粛しているのに」
と、人々は眉をひそめていた。
3時。シベリア寒気団の影響で急激に冷え込み始める。行列の中ではXbox 360を暖房代わりにする姿もちらほら。
「PS3があったらもっと暖かいのに」
と残念そうだ。開店待ちの群れはすでに30,000人を超えている。4時。ヨドバシ脇のワシントンホテルが、急遽炊き出しと体調不良者への個室開放を決定した。「ソニー製品の発売日ですからね。みんなで助け合わないと」と支配人はにこやかに語る。
5時。50,000人を超えた行列に万世橋署から移動要請が出る。一部はUDXビル前に分散することになった。一家電製品の発売に際して警察が動くのはきわめて異例だ。しかしPS3購入希望者の人間力はきわめて高く、不満ひとつもらさない。みな、頭の中ではPS3のたくさんのローンチタイトルを思い、満面の笑みを浮かべていたのだ。
6時。ヨドバシ店員があわただしく開店準備を始める。見守る人々の目は輝き、まるで子どものようだ。そのとき、エントランスの巨大スクリーンが突如点灯。今回の騒動の仕掛け人・久夛良木健SCE社長の顔が映し出された。
「PS3は私の娘。みんな存分に楽しんでもらいたい」
と語りかける同氏に、店の前では怒濤の「クタラギコール」。この時点で行列は十万人に達していた。
7時。ファンファーレとともにヨドバシカメラは通常より早く開店。待ちかねた人々が、次々にはした金とPS3の包みを交換していく。気の早い者はその場でパッケージを開けて起動していた。「すげえ! 発売当日から修正プログラムを配布してるんだ! なんて気前がいいんだろう!」と歓声があがる。リッジレーサーのフォトリアリスティックぶりに泣き出す者もいる。同日中にPS3は「初期出荷10万台完売」の偉業を達成。しかしこれは、PS3が引き起こすデジタル革命のほんの幕開けに過ぎなかった…。
8時。SCE社長・久夛良木健氏は、眠い目をこすりながらベッドから起き上がった。
「なんだー、夢かー。
実際のとこ、売れ行きどうだったのかなー」