自社のインクジェットプリンター用カートリッジについて、キヤノンがリサイクル品の販売差し止めを求めていた訴訟。知財高裁は31日、リサイクル品輸入会社に販売停止と廃棄を命じる判決を下した。一審の結果を棄却しての逆転勝訴で、キヤノン側が主張する「不正アクセス禁止法違反」を認める画期的な判決結果。今後の業界動向にも大きな影響を与えそうだ。
訴えられていたのは、中国から再生カートリッジを輸入・販売しているリサイクル・アシスト社。このカートリッジは、回収した使用済み製品にインクを注入・再生したものだ。だが、キヤノン製カートリッジは外部からのインク注入を防ぐため全面にわたって般若心経を印刷。比叡山高僧による結界が張られている。法力のない素人が注入しようとしてもはねかえされるしくみになっていた。これに対してアシスト社側は中国四千年の歴史を活用。現地の高名な仙人による奇門遁甲術で結界を破り、インクを注入可能にすることでリサイクルしていた。
裁判の最大の争点は「張った結界を破ることは不正アクセス禁止法違反」と訴えるキヤノン側の言い分が認められるかどうか。リサイクル会社側では
法力の劣る結界が破られるのは当然。破ったあとは自由にしてよい
としており、一審判決もこれを大筋で正当とみなしたものだった。今回の知財高裁の判断は一転、
たとえ法力が劣っていても、みだりに結界を破ることは違法
との見方を示した画期的なものだ。
リサイクルカートリッジ市場は「メーカー結界を破っての再利用は当然の権利」との暗黙の了解で成り立ってきた。今回の判決結果で業界各社には動揺が広がっている。また、セキュリティと法の観点からも疑問の声があがりはじめている。セキュリティにうるさい専門家の高木浩光氏は
破られてしまうような弱い結界を、そもそも不正アクセス禁止法で保護する対象にしてよいのか。専門家のあいだでは弘法大師2級以上の認定法力による結界でないと実用に耐えないとの見方が大勢だ。企業担当者は今回の判決で気を緩めることなく、日々早九字を切り真言を唱えるなど鍛錬につとめるべきだろう
と警告している。