国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中の若田光一さんは12日、東京ドームでおこなわれた巨人・阪神戦開幕に先立ち始球式に参加。ISSの実験棟「きぼう」から投げたボールはドームで待ち構えるキャッチャーのミットにみごとにストライクした。いっぽう、この投球に伴いドームではバッターボックスを中心に直径約2メートルの巨大なクレーターが出現。上部天幕全体が破れて崩落したほか火災など二次災害の影響で半壊状態となりパニックに。せっかくのドラマチックな式の成功にもかかわらず、試合は中止となった。
この日の始球式は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の提案によるもの。「宇宙から始球式をやったら、もっと宇宙開発に興味をもってもらえるはず」と若田さんに実施を指示した。高度約400キロメートルのISSからボールを投げるのは多くの技術を要求される。たとえば熱。ふつうに野球のボールを投げてしまえば、大気圏突入の摩擦熱で燃え尽きてしまう。また、人間ワザを超えた正確な投球、そして速度も必要だ。若田さんはまず、きぼうにたまたま残っていたスペースシャトルの耐熱セラミックなどを組み合わせて野球ボールが大気圏突入に耐えられるよう改造。正確な投球については、これもたまたまあったセガの「ロボピッチャ」をステーションのコンピュータと組み合わせ実現した。
始球式は午後3時に開催。テレビ中継で全国の野球ファンの目が注がれるなか、ISSから世紀の投球がおこなわれた。はるかな宇宙空間から放たれたボールは、摩擦熱で赤く染まりつつも東京ドームの天幕を突き破ってキャッチャーのミットにみごとおさまった。歓声を上げる人々。だが、やや遅れて強烈なソニックブーム音と爆発音が発生した。バッターボックス周辺は直径約2メートルにわたって陥没、場内全体に土塊を飛び散らせた。続けて火のついた天幕が観客席に降り注いでくると歓声は阿鼻叫喚に変わった。衝撃波でキャッチャーとともに消滅した主審に替わり、塁審が試合の中断を宣言。しかし、その声もパニック状態となったアナウンサーの実況でかき消される大惨事となった。
若田さんは
「JAXAから“おまえ始球式をやれ”と指示されたときは“たいへんなことになる。ホントにいいのか?”とびっくりした。技術的・精神的に困難を伴うミッションだったが、なんとかやり遂げた。今は満足している。こんどはサッカーの始球式をやりたい」
と話している。