「むかし、オオカミに育てられた少女がいた」という話は、もはや一般の人々にも知られるようになり、本当にあったこととして受け入れられている。読者諸兄の中にも「子どものころテレビで見た」など親しんできた向きが多いはずだ。この「オオカミ少女はいなかった」は、そんな事例をはじめこれまで真実とされてきた多くの“神話”のウソを喝破してくれるみごとな一冊だ。著者は心理学者の鈴木光太郎氏。
表題にもなっているオオカミ少女は、中世日本の山奥でオオカミに育てられたサンという少女がいたという話で、小学校の授業でも映画が流されることがあるほど一般に信じられている。だが、著者によるとこの話には疑わしい点が多いという。サンの発見者であるアシタカの報告によれば、たとえば「サンはミニスカートで仲間のオオカミにまたがって遊んでいた」という記述があるが、当時の日本には女子がぱんつを履くという習慣はない。そのまままたがればアソコがチクチクして痛いはずなのである。遊んでなどいたはずがない。
また、サンを育てていた巨大オオカミのモロは首の部分だけの写真が多く発見されており「分割可能なハリボテだったのだろう」という。となると気にかかるのが、これほど大きなウソをついたアシタカの動機だが、著者は
「アシタカはコミュニティを追い出された孤独な非モテ男だった。ウソでみんなの注目を集めようとしたのだろう」
と断ずる。オオカミ少女はいなかったのだ。
本書では、ほかにも
- 金色の野に降り立つ青い服の少女はいなかった
- 天空の城は本当はなかった
- ヤツはたいへんなものを盗んでいかなかった
など、さまざまな事例を挙げてウソをあばいている。いままで真実だと思いこまされていたものをフィクションだと知ることは苦痛となる場合もあるが、バーチャルリアリティに染まりがちな現代だからこそ、ぜひ読んでほしい一冊だ。