カリカリカリ…一心不乱に手紙をしたためる音が響く。ここは東京・永田町にあるマンションの一室。熟練した「遺書職人」たちが、自殺者むけ遺書を制作している工房だ。参議院選挙公示を目前に控え、遺書の出荷準備はいまが大詰めだ。
政局の季節に引き合いが多いという遺書。今年はシーズン前にも大量の注文があり、忙しさはひときわだという。それでも職人たちは手を抜かず、匠のワザで一通一通書き上げる。
「自殺者本人にもわからない動機・悩みを精緻に書き上げるのはたいへんです。残された遺族・国民を納得させなければいけませんからね」
と、ベテラン職人のひとりは語る。最近は「日本国万歳」でシメれば、だいたいうまくいくとのこと。
取材に伺ったときは、ちょうど参院選に向け見込まれる自殺者増で、工房はおおわらわだった。
「発言を撤回するだけじゃ足らなかったんでしょうね。本人のほか、父母・地元後援会長も自殺されるそうなんですよ。ひとり8通としてぜんぶで…とは言っても支持率や票数に直結する話ですから、泣き言は言っていられませんよ」
とは先のベテラン氏。与党の座を守るため流す汗は輝いていた。
いっぽう、部屋のひときわ奥まったところでは、最高齢の頭領だという老人が真剣な目付きで一通の遺書に取り組んでいる。
「情勢によってはこれを使った弔い合戦になるかもしれないんじゃよ。書いていると神経が擦り減りそうじゃ。とりわけ質にこだわらんとあとあと問題になりかねんからのう…」
と筆を運ぶ遺書の宛名には
「昭恵へ」
とあった。これほどの逸品が世に出れば、どんなに多くの人々が喜ぶことだろう…。記者は出荷の日を心待ちにしながら、工房をあとにした。