食べ盛りの若者からメタボな中年男性まで、多くを魅了してやまない食べ放題=バイキング。しかし、その名の由来となった民族にとっては魅力どころかとんでもない侮辱と受け取られているようだ。北欧からやってきたバイキング族の留学生が
「バイキングという名前を使うのはやめてほしい」
という呼びかけをはじめ、注目を集めている。
この留学生は京都大学に通うトールさん(24)。2年前に日本にやってきて、街中のレストランが「バイキング」の看板を掲げているのを知り「わが民族の名前を冠するとはさぞかしおいしいのだろう」と喜んだ。しかし、実態を知り喜びは一転怒りに変わった。
「まさかただの食べ放題なんて! しかもマズいところが多い」
トールさんは頭にかぶった角つきカブトを震わせながら憤る。
トールさんによれば、
「バイキングが食べ放題なんてありえない。元来バイキングは長い船旅に耐えられるよう、ふだんから少食にしておく習慣があった。そのため、胃の小さい人が多い。われわれの文化への誤解をまねくだけでなく、“バイキングは食い意地がはってる”などと思われれば民族に対する侮辱だ。すぐやめてほしい」
鼻息も荒く戦斧をふりまわしながら、トールさんは「止めない奴の首をはねてやる」と凄んでみせた。
去りぎわ「これからの時代、日本にはさらなる国際化が求められる。外国の人々を実態とかけ離れたステレオタイプで知った気になるのは、日本にとっても得にはならないでしょう」と悲しげに語ると、トールさんは愛用のロングシップに乗り込みいずこかへと消えていった。故国を離れた留学生の想いは、はたしてレストラン経営者らに届くのだろうか…。後ろすがたを眺めながら、久しぶりに新宿京王プラザホテルの「グラスコート」でバイキングを楽しみたくなった記者であった。