いわゆる“とんちもの”として根強い人気を博して来た「吉兆六(きっちょむ)ばなし」シリーズ最新作。今作からは若者にも親しみやすいよう、舞台を現代日本、大阪の高級料亭に移した。
あらすじ。主人公で高級料亭「吉兆」のオーナーである吉兆六は、大手デパートとの契約に成功。吉兆ブランドの菓子販売を手掛けることになる。しかし、目玉商品の「黒豆タルト」は思ったより日もちが悪く、このままでは利益があがらない。起死回生の策として吉兆六はタルトの賞味期限を最大39日ごまかすとんちを思いつくが…。
読み始めは
「賞味期限偽装など、今やどの企業もやっているではないか」
と新味に欠ける印象を受けた。しかし、偽装がバレたあとの吉兆六の
「バイトが独断でやりました」
というとんちに「その手があったか!」と意表をつかれてからは、ストーリーにぐいぐい引き込まれてゆく…。今作で吉兆六ばなしは単なるエンターテインメントからみごとな脱皮を果たした。これは実社会でも企業や政治の現場で参考にできる、まちがいなく一級のビジネス指南書だ。
とんちと言うと「こどもだましだ」「古臭い」と敬遠する人が多いが、なかなかどうして生き馬の目を抜く現代ビジネスの世界にも参考になる、さまざまなアイデアが詰まっている。とんちこそまさに日本古来の“LifeHack”─ということを再認識できる一冊だと感じた。