日本ミステリー小説の祖として知られる故横溝正史(1902~81)の旧宅から、代表作・名探偵金田一耕助シリーズの初期未発表ボツ原稿が見つかった。どの原稿もひどいできばえで、ミステリー執筆時の鉄則である「ノックスの十戒」を守っておらず、氏ほどの大作家も産みの苦しみを味わっていた時期のあることが伺える。
このボツ原稿は東京の横溝氏の旧宅に保管されていたがものを二松学舎大・山口直孝教授らが調査を進めていた。分析結果によると、
「ミステリーを成立させるためのべからず集である“ノックスの十戒”を一切無視した駄作で、文芸価値は最近の萌え系ラノベ以下」
だったとのこと。
具体的には
- 犯人が最後の1ページで唐突に現れたキャラ
- 本陣の被害者は有機水銀の生物濃縮による中毒が原因で死ぬ
- 助清が双子
- 金田一が「キムテンピン」という名の朝鮮系中国人で、弁髪をふりまわしながら死者の魂を召喚して事件を解決する
- 金田一は「あばれはっちゃく」の先祖で、「はっちゃけた!」と叫んで事件解決
など、「ボツも当然」とうなづけるものばかり。
調査した資料からは、横溝氏担当編集者が
「ウチの誌面をこんなクソ原稿で汚すつもりか」
「あしたまでに入稿しないと白紙ページが出る。すぐにおまえの血で赤く染まるがな…」
と励ます手紙も見つかっており、希代の名探偵が生まれた背景には作家と編集者の強いきずながあったことを伺わせる。ミステリーの大家の産みの苦しみに思いを馳せつつ、あらためて金田一シリーズを読み返したい気持ちになった。