「ここでハトにエサをあげないでください」─東京・市ヶ谷の防衛省にこんな注意書きが張り出され、話題を呼んでいる。繁華街や公園ならともかく、厳粛であるべき省庁ビルでは異例の張り紙だ。
「エサを求め寄ってくるハトに、たいへん迷惑している」と語るのは、同省で整備・庶務をこなす三島さん。エサをまくほうは「おねだりされるから」「見返りがありそうだから」と安易にバラまきがちだが、当のハトたちのためにもならないと三島さんは言う。目に余るハトは駆除の対象になるからだ。
「今年はもう、増えすぎたハトが2匹も殺処分された」
出入りの業者らは不満げだが、いちおうは注意書きの指示にしたがっている。
「しばらくがまんですよ。まあ、ほとぼりがさめればまたハトたちとたわむれる日が来るんじゃないですか?」
と、たまたま通りがかった自称ハト好きの山田洋行さん(38)。今でもポケットには、ハトにあげる夏目漱石柄のエサをしのばせている。
いっぽうで、こうした「ハト撃退」を叫ぶ風潮に対し憂う向きも少なくない。「防衛省内のパワーバランスが崩れ、タカ派の勢力拡大につながるのではないか」というのだ。最近の東京都・宮崎県などでの“鷹匠ブーム”を見ると、一概に杞憂と笑ってすますこともできない。タカに警戒しつつ、ハトの異常繁殖にも待ったをかけるにはどうすればいいのか…。かけ声だけではすまない環境保護のむずかしさが、ここでも頭痛のタネとなっている。