フィギュアスケート女子世界選手権で安藤美姫(19)が優勝、浅田真央(16)も2位と上位を独占した日本勢。まさに「スケート日本」の黄金期が花開いたように見えるが、新陳代謝が激しいとされるフィギュア界だけに、こうなると心配になるのは優秀な新人を今後も継続的に輩出できるかどうか。しかし、事情通によれば彼女たちの後を継ぐ有望な若手がすでに育ちつつあるという。
“滑りの能力”にかけては右に出る者なしと言われる無名の新人がいると聞き、東京・表野町のとある貧乏下宿をたずねた。
「いやー、ワスなんてそんな大したモンじゃないス~」
と謙遜しながら取材に応じてくれたのは、苅野勉三(24)さん。山形県出身で高尾大学経済学部をめざす浪人生だ。
勉三さんは、ハタチを過ぎながらも学生服、牛乳瓶の底のように分厚いメガネ…と風体からして違う。「滑りのプロ」のオーラが満ちている感じだ。国内大会での戦績はすでに五浪。この大学全入時代に、イナバウアーも真っ青の滑りのテクニックでフィギュア関係者の度肝を抜いた。取材は三月半ばだったが「今年はどうだったのか」と聞くと、
「いやー、もう六浪決定スー。
おふくろに申し訳ないスー」
と頭をかきながら自己新記録を達成したことを明らかにしてくれた。
ちょうど取材を終えるころ、サンバイザーをかぶった小学生が勉三さんの部屋を訪れた。いまから近所の空き地でみんなで遊ぶのだという。これはさらなる自己新、いや世界新記録の達成が期待できるのではないか…。記者は彼がリンクで世界の観衆を沸かせる姿を夢見ながら、町をあとにした。