むかし、むかし、クリスマスイブの夜のことでした。雪が静かに降りしきる大阪・御堂筋を、ひとりのこころの貧しい少女が歩いていました。橋の下に住んでいたので橋下徹子と呼ばれておりました。今日は楽しいクリスマスイブ。みんな襟を立てて寒さをしのぎながら家族の待つ家へと急いでいます。でも、子だくさんの徹子はこんな日も働かなくてはいけません。
「イルミネーションはいりませんか」
「イルミネーションはいりませんか」
徹子は道行く人を呼び止めてはイルミネーションを売ろうとしますが「この不景気に」「腹の足しにならない」と誰も買ってくれません。徹子は疲れきってからだが凍えてきました。ああ、寒い…。こうなったら、このイルミネーションをともして暖を取ろうかしら。いえ、いけないわ。府民の血税をまきあげてつくったイルミネーションですもの。…でも、ちょっとだけ。
徹子はひとつだけイルミネーションをともしました。するとあたりが暖かな光に包まれました。「まあ!」と驚いたことに、その光の中には予算削減でお取り潰しになったはずの大阪の図書館が見えました。やがて光は消え、また寒さが戻ってきます。徹子はもうひとつともしてみました。今度は暖かな光の中に、なくなったはずのワッハ上方で爆笑している人たちが見えました。次にイルミネーションをともすと、今度はなくなったはずの私学助成を受けて喜んでいる子どもたちの姿が見えました。見ているあいだは気持ちが不思議と暖かくなりました。
イルミネーションを使い切ってしまうと、あたりはいっそうひどい寒さに包まれました。このままわたし、死んでしまうのかしら…徹子は思いました。でもいいわ、最後にきれいなものを見せてもらったから…。やがて、府庁から公用車が迎えに来ました。
「知事、ジムの時間ですよ」
少女はそのまま、黒服の天使にあたたかなフィットネスクラブへと連れられていきました…。民間企業ではよくある話でした。