心を打つあの名作をスクリーンで。夏休み映画として公開された
「西の魔法使いが死んだ」
が、一部成人男性のあいだで人気を呼んでいる。原作は「魔法使い」と呼ばれる老人とニートでモテない20代男性との魂の触れ合いを描く中編小説。哀感あふれる世界をみごとに映像化した。
あらすじ。まりおは25歳にして無職童貞。女子の知り合いもおらず、ふだんやっていることと言えば匿名掲示板の読み書きばかり。業を煮やした母親は「西の魔法使い」と呼ばれる祖父のところに、まりおを預けることにする。
「30まで童貞を貫くと魔法が使えるのよ」
と語る祖父のもとで、まりおは魔法使いになる修行を始めるのだが、その内容とは全アニメ番組をきちんとエアチェックするなど「規則正しい生活を送ること」だった…。
テーマは、作品中で語られる魔法使いのことばに如実に表されている。
「自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。ユニクラーはビームスに出入りする必要はないし、オタ芸はクラブクアトロでは咲かない。モテない童貞が夏フェスよりコミケで生きるほうを選んだからといって、だれが童貞を責めますか」
滔々と語られる哲学に、観客は強い自己肯定感とカタルシスを得られるはずだ。
ただ、魔法使いになって何がうれしいのか、むなしくないのか、そもそも魔法使いのはずの祖父がなぜ子孫を残すことができたのか…など原作にあった謎は映画でも解かれずじまい。筆者も魔法使い見習いとして日々研鑽しながら続編に期待したい(8月末まで松竹系で公開中)