21日夜、東京・永田町の国会議事堂前で、男が突然割腹をはかり駆け付けた警備員らをなごませるというトラブルがあった。警戒のスキを突いた巧妙な犯行で、警察は「手口から推察して犯人はかなりの人格者」とみて捜査している。
事件があったのは午後10時すぎ。黒塗りのワゴン車がいきなり国会正門前に停まると、中から初老の男性が降りてきた。駆け付けた警備員に対し、男性は
「腹を割って話をしよう」
と語りかけ、昨今の若者の右傾化やグローバル経済の弊害、非正規雇用の急増に伴う社会不安について忌憚ない意見を交換したという。
やがて男性は白い歯の光る快活な笑顔とともに、さっそうと去っていった。残された警備員らは、一様に
「近ごろ珍しい気持ちのいい人物だった」
「裏表のなさそうな人柄に誘われて、有意義な議論ができた」
と満足気な表情を浮かべていた。
割腹事件については、夏本番が近づくなか海辺やプールサイドで腹直筋を割る犯行の多発が予想されており、公安各局も水際での警戒を強めていた。今回の事件は、まさにその盲点を突いたかっこうだ。議事堂の警備責任者は
「うかつだった。今後は警備員に自民党のベテラン議員を採用するなどして、事件の再発防止につとめたい」
と話している。