「年末からぶっ続けで作業しています。もう腱鞘炎になりそうですよ」とこぼす森田真一さん(34)。新生・三菱東京UFJ銀行の情報システム部に所属する社員。袖口に目をやると汚れで真っ黒になっている。
東京三菱とUFJが一日付で合併し発足した三菱東京UFJ銀行。保有する口座数が世界最大級の約4,000万に達する、まさにメガバンクの誕生だ。合併に際して上層部がもっとも配慮したのは、いかに混乱なく両行のシステムを統合するか。「みずほショック」の再現は絶対に避けねばならない。スムーズなシステム統合のため、幹部は多くの予算を割くことを言明。合併を当初の予定より4ヶ月遅らせる英断もあった。
昨年12月。旧東京三菱・UFJのシステム担当は、各地の文房具店を忙しく駆け回っていた。新銀行の大福帳システム構築のために、新品のノートを買い集めていたのだ。規格をすべて三菱東京側のコクヨA4・8mmケイに統一することになったことも、ノート調達を難しくしていた。調達できても本番の作業はまだ。12月30日に銀行の窓口を閉めると同時に、社員らは手分けして古い大福帳の中身を新しいノートに書き写しはじめた。4日朝までに、一字一句漏らさず書き写さねば新銀行の業務をスタートできない。
残り一日を切った3日午後、問題が発生。書写用に用意していた鉛筆が切れはじめたのだ。思わぬハプニングに現場に動揺が走る。子持ちの行員が家庭から子どもの鉛筆をまきあげてくることで急場はしのいだが、まだ気は抜けない。鉛筆の芯、行員のやる気。どちらがすり減るのが早いかギリギリの線で作業は進んでいる。
同行では、開業に向けて新ATMの中に入るスタッフの再教育などにも余念がない。
お金と取引票を渡すのを忘れても“ありがとうございました”の声は忘れないように、を合い言葉にしています
と胸を張るATMスタッフ。彼らのがんばりが4日朝に実を結ぶことを期待したい。