「床屋政談」のレベルを不当に低く評価しないで─22日都内で集まった床屋さんたちが、そんな緊急アピールを採択した。このところ政府与党関係者や有識者の発言レベルがあまりに低く「床屋政談」と揶揄される事例が多いことから、本来の床屋政談まで低く見られることを危惧してのアクションだという。
都内・高田馬場で200人を集めるパネルディスカッションを開いたのは、全国理髪師組合(本部:東京)。「ネオリベラリズムの台頭と知の消費財化時代における床屋政談」と題して斯界の論客5人を中心に議論を繰り広げたのち、
「床屋政談の質的向上を通し、本来のディレッタンティズムや社会の矛盾を鋭く衝く原動力としての床屋政談の価値を広く人々に再認識してもらおう」
との宣言を、出席者の賛成多数で採択した。
このところの床屋政談の価値下落は急だ。従来は床屋の専売特許だったものが、この一年で国務大臣や有識者会議参加者のあいだで公然とレベルの低い床屋政談が繰り広げられるようになったためだ。国民のあいだでは「床屋政談とデンパは紙一重」という認識さえ一般化しつつある。
「本来の床屋政談は、在野の有識者による高度なディレッタンティズムや専門性の発露だった。レベルが低いというのは一部の人間の言動が目立つためそう見えるだけで、あくまで印象論」と指摘するのはパネルを務めた江東区の理髪師・大谷正彦さん(58)。専門分野は教育で、イリイチに影響を受けた脱学校論をベースに独自の視点から来店する客と議論が白熱することしばしという。「アメリカ人のヒロユキ・ヨシイエが参加してから、生産的な床屋政談ができなくなった」とこぼす。
防衛戦略を専門とし、自分の店で自主発行の季刊「ディフェンスレビュー」を販売して海外からも高い評価を受けている南田康夫さん(57)は、
「たとえば、日本の核武装は地政学的バランスを崩すためありえない、というのは床屋政談界の定説。久間大臣の発言はわれわれが20年前に通り過ぎた道で、あんなのと床屋政談を一緒にしないでほしい」
と手厳しい。
同組合は今後、宣言を通して世間に床屋政談の価値見直しをうったえていくほか、床屋政談の底上げをはかるため、国家資格「床屋政談士」を制定し取得者のみ床屋政談を可能にする法整備を政府に訴えていきたいとしている。