「橋の見た目なんかより、苦しんでいる人々を救うほうが大事」──奥田碩・日本経団連前会長、中村英夫・武蔵工大学長ら4人で構成する「日本橋みち会議」は4日、東京・日本橋の景観を再生するために拠出される事業費5千億円を、全額ヒロシマ・ナガサキの被爆者救済のために寄贈することを決めた。
日本橋みち会議は小泉首相の私的諮問機関で、直上を首都高速が通る日本橋川の景観を回復すべく、鎌倉橋=江戸橋間1.1キロの再開発手法を検討してきた。7月末には同区間の完全地下化計画を決定。政府もこの答申に従い、近隣を走る半蔵門・銀座・浅草各地下鉄の移設を含む総事業費5千億円の拠出を進めている。
しかし、広島地裁で4日判決がおりた「原爆症認定見直しを求める訴訟」を知り、奥田氏らの論調は一転。
「まったく知らなかった。いまだ国から原爆症と認定してもらえず、苦しんでいる人々がたくさんいるとは。橋をきれいにするより彼らを救うほうが意義深いのではないか」
2006年現在で原爆症の認定を受けることができた被爆者の数がわずか2千人と少ないことも、会議メンバーの心を動かした。
原爆症認定患者に交付される支援金は月額12万円。試算によれば、日本橋に費やされる予定だった事業費5千億円で
1億人の被爆者を今後34年間
支援することができる見込みだ。「被爆者の数が多く、救いきれないことはわかっている。しかし、これで少しでも救済することができれば」と奥田氏は話す。
会議の報告を受けた小泉首相は、
「いいね。被爆者のことはぼくもまったく知らなかった。
橋より大事だと思う」
と話しており、実現に前向きな姿勢を示している。また、次期首相の本命と目されている安倍晋三官房長官も、「被爆者救済の政策については新政権でも引き継いでいきたい。日本橋より命が大事」とのコメントを発表した。
日本橋みち会議事務局では、事業費を運用すれば利子収入が得られることから
「より多くの被爆者の救済も可能ではないか」
と基金化の方向でも検討を進めている。